2010年の時点でミシュラン2つ星。
左岸地区に宿泊した記念にということで、夕食に。20時半過ぎ。
王様の名がついてるから、瀟洒で豪華なレストランを想像していたが、外観はさにあらず。小さな、古ぼけた感じのレストラン。
入店すると、たしかに豪華さを感じるとはいえ、やはりどこか年代物独特の退廃感、くすんだ感じを否めない。そのイメージは、皿を追うごとに一変、クラシックの凄味を感じさせてもらえた。
80ユーロのコースを選択。前菜・主菜・チーズ・デザートからなり、選択できる。
最初にお通しとして、ミニパイとミニピザのようなものが1ケずつ。味はさほどでもなく、やっつけ仕事に感じなくもない。「なんだかなあ」と
思い、ワイン代をケチる算段をしているうちに、トマトのガスパッチョ、上にきゅうりのムース。塩分がほどよくしみじみと美味しい。喰うための背筋がだんだ
んと整ってくる。
私の前菜が、フォワグラと茸のロースト。フォワグラは大した量ではなく、茸の占める率のほうが多い。カネロニを円柱のように2つ並べ、そ
の上にトリュフがちょこんと載っている。見た目は茶色っぽく地味な皿だが、正直、旨い。口内でフォワグラときのこが絶妙にからまり、調和を奏で、舌に何か
を記憶させているような。
香草類が使われていて、その刺激が、さらにうま味を引き出している。私はフォワグラをあまり好きではないが、これならいける。
配偶者の皿は、オマール海老のぶつ切りをローストしたしたもの。酢漬けの人参を花びら状に切ったものやルッコラが、散らしてある。酢漬けニンジンの酸味がほどよく、美味とのこと。
主菜は、私が鳩のロースト。足2つ、手羽2つに胸肉が登場しているから、丸々鳩1羽を使ったことになる。これに、蕪やら人参やらいろいろな
野菜が一緒にローストされている。これまた見た目には地味で、貧乏学生の肉じゃが弁当のように茶色主体だが、肉と野菜の調和がすばらしく、大げさにいえ
ば、滋味の洪水。ヒタヒタと押し寄せてきたものが、最後はドッとくるという感じで、喰えば喰うほどに、幸せな気分になっていく。
ちょっとだけ鳩独特のえぐみ、いやらしさを感じないでもないが、ワインを口にすれば、雲散霧消。これまた、一つの味の広がりに思えてくる。
配偶者の主菜は、牛肉。牛肉が牛肉じゃないと思えるほどやわらかく調理されてあり、旨いらしい。人参や蕪やら多くの野菜も調理されている。フランスには珍しく牛蒡まで登場、蕪がじつに美味しいとのこと。
このあと、チーズのワゴンサービス。種類は10前後とさほどでもないが、精選されたという感じ。ミモレットもある。ミモレット、じつは大きな箱型になっていて、そこから少しずつほじくり出すようになっている。初めて知った。
デザートは、私が苺主体のもの。カクテルグラスに苺と生クリーム。昔よく食べた苺の牛乳かけのよう。和食の最後に登場する甘味のようにシンプルであり、素材勝負という感じ。デザートをいつも残す私でも、これなら全部喰える。
配偶者のデザートは、スフレ。卵がたっぷりの熱々。昔懐かしい味がするらしい。このあとエスプレッソ4ユーロ、ハーブティ4ユーロ。小菓子が4種類。
食事のまえには、シェフが登場、挨拶、握手までしてくれる。人あたりのよい誠実な風であり、その誠実・真摯さが料理に反映されているということか。
ワインリストは充実。アンリ・グージュのニュイ・サン・ジョルジュ1級畑が110ユーロ。こんなに旨い料理なら、ケチらず、もっと高めのに
すればよかった、とちょい後悔。このあと、シャンパンのハーフボトルが40ユーロ。食前のシャンパンが1杯18ユーロ。水750mlが5ユーロ。
この日のパリは30度を超えて、すぐに喉が渇く。こんなときは、水も最高のご馳走になる。2本頼む結果となった。
帰国後、日増しに記憶に焼きついていくという、珍しいレストラン。当日は、滋味溢れるレストランで喰ったという印象程度だったが、帰国後、
大根の煮たのやら、白菜の水炊き、油揚げ、だし巻き卵、いりこ出汁の雑煮、鱸の煮つけといったものを口にするたびに、このレストランで喰った感触が蘇って
くる。ど正統の古典を食って帰ったんだなあと思うと同時に、和食のうま味にどこか共通する何かが皿に存在していたような気になる。京都の和食の名店、それ
も出汁が凄絶な名店を出たときと同じような感慨を持つことに。まるで舌に何かが刻印され、遠隔操作を受けているというオカルトめいた感覚にさえなる。
パリはあまり好きではないのだが、もしパリ左岸に宿泊することがなるなら、また行きたい。
(店内の様子・客層) = おもに金持ちの常連らしい。娘を連れた家族連れも。日本人もときどき来るらしい。この日は暑さのため、皆さんジャケットを脱ぎ、シャツ姿。私は、暑い夏には慣れっこの異邦人ということで、ジャケットを脱ぐのを我慢する。
ちなみに、この店の名はルイ13世が学んだ学校であったことに由来。由緒ある建物だから、クーラーを派手につけるわけにはいかない。夏は、厳しい。
(スタッフのようすや対応) =
若い日本人が1人、スタッフとして参加。ソムリエになったばかりという。彼がどのテーブルでも、ていねいに客に説明している。その彼がつねに世話をしてく
れたので、まったくストレスというものがない。それにしても、日本の若者は海外に出なくなったといわれるが、彼のような挑戦者が次々と出てくることに感心
する。このレストランのパティシェにも、日本人がいるという。
(日本語・英語対応) = メニューはフランス語のみ。この日は、日本人ソムリエ氏がいたから、大舟に乗った状態。
(予約方法) =
レストランのサイトから。間違えて2度送信し、返信もない。おかしいなと思っているところ、私の留守中、フランス語の電話があったよう。フランス語をまっ
たく知らない配偶者、オロオロ。英語で「私よりもう少しましなイングリッシュ・スピーカーが数時間後に帰ってくる」と対応し、何とか切り抜けたらしい。あ
とで私が電話し、なんとか解決。クレジットカード情報を送るよういわれ、FAXで送信。
当日、20時30分過ぎに入店すると、受け付けの女性から20時だったと思うが、と言われる。別に大した問題にはならなかったが、下手な英語とフランス語によるミスか。
(10点満点で何点?) = 9点。ワインがもう少しいろいろあれば、もっと高い点に。
(支払い方法) = VISA
(その他) =
この夜、恥ずかしいことに、配偶者が帽子を忘れる。翌日夕刻前に、彼女が店を再訪。鍵がかかっていたので、ドンドンと戸を叩いたら、日本人ソムリエ氏が登
場。つづいて、シェフまでが登場。ソムリエ氏が帽子のことを覚えてくれていて、無事、回収。日本では当然かもしれないが、誠実を感じる。
(2010年6月下旬 葦原のしこお 様) |